見送るだけ/ただのみきや
残暑なんてあっという間
待たされるのは春くらいなもの
きょう雨はやわらかな御手
緑深い山々のあたまを撫でている
天はやさしく言い諭す
まるで母親のように
さあ片付けを始めなさい
今からしないと間に合いません
所狭しと散らばった無数の命
一つ一つ集めては箱に仕舞って
木々たちが錦の衣を脱ぎ捨てる頃
月光が切れるくらい冷たくなる前に
葉隠れ楽士のカンタンが
先に逝った蟲たちを詠っている
夏は何度かふり返る
そして去って行く白い雲
人はただ見送るだけ
去り逝く白い煙となる
その日まで
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