夏の送別/梅昆布茶
 
 「誰でもない何処にもいない」


何回目の夏を送別したのかは とうに忘れてしまった

火傷するほど熱い砂を踏みながら 水平線と湧き上がる雲の先に

いかなる幻影を見出そうとしていたのか 

定かでないほどに たくさんの夏がきらめいて去った


波を怖がる幼いわが子と とり残された小さな干潟で蟹や小魚に戯れ

永遠に家族であろうとも思われたた午後 すでに夏は夕暮れを孕んでいた


やがて夕立がやってきてすべての砂の城は崩れ去り

また海岸線の風景に音もなく呑み込まれてゆく

言葉は所在無げに 唇をかすかに震わすだけだった


幾度もの送別をもたら
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