人形劇/春日線香
空の彼方に
雲がすばやく流れている時は
家のほうが動いているような気がする
そう考えると足元がぐらついて
ああでもないこうでもないと
心臓に暗い汁が溜まってきて
余計なことを考えないように
細い道の先だけ見ていればいいのに
水際に打ち捨てられた軽トラや
ねぎ坊主だらけの畑が迫ってくる
今こうしているあいだにも
地面の下を虫けらが食い散らかし
舞台はずぶずぶと
土に潜り込んでしまわないか
誰かが糸を切り離して
ころりと首が落ちてしまわないか
考えたところでどうしようもないが
一度気にしだすと心配はふくらむ
冷や汗を流して演技を続けると
おまえが気にしなければならないのは
あっちだよと言われて
鬼の指差す暗がりに
柳の下の客席は人であふれ
どの人もどの人も
火山灰で真っ白だ
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