Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht? ★/atsuchan69
 
錆びたトタンの切れ端を腹に巻いた彼には、まだ、顔がなかった。二十もすぎて今更もう顔なんて要らないよォ、という。が、顔がないので当然、話すのにも口がない。にもかかわらず、「家に住むのに屋根がナインだよ」とでも言いたいそぶりで小指を一本失った右手を左手と揃えてパーをニギニギしてみせる。きっと自分の頭のなかが、世界中の誰もと同じだという類の酷く大きな勘違いをしているのだ。「トタンの切れ端が、アンタのいう『屋根がナイン』そのものだったのに」と、きっぱりとボクは本当のことを言ってやりたいのだが、彼はよく澄んだ秋空を両腕で大きく仰いで※【魔王】の「♪かわいいぼうや ぼくのところへおいで 一緒に遊ぼうよ 楽しい
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