仕舞蝶/ただのみきや
蝶は夏の光を泳ぐ
ふわり ふわり
目には楽しげで
花を愛し
仲間と戯れて
ときに人にも寄り
いのちの季節を謳歌する
さて黒い揚羽がまるで
空飛ぶ絨毯のように
羽ばたきもせず滑空し
それはゆっくりと
頭上を越えて行った
やあ御機嫌ようと
見上げれば もう
翅は破れ襤褸になり
右と左が違っている
エメラルドやサファイアを散りばめた
黒いドレスの貴婦人よ
かつての姿は霞んでも
その本性を失わず
光の海を渡って行くか
夏の空気に揺蕩いながら
ゆっくりと
饐えた悲哀の匂いはなく
憐憫の情をも拒むように
いのち《すなわち生と死》の威厳を纏い
一夏一生
長いか短いかではない
生きるかぎり己でいたい
襤褸になっても呆けても
紛うことなく己でいたい
こころの翅を広げたまま
揺らめく現象の終息
いのちの季節の境目まで
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