もう一人のペソア/yamadahifumi
自分が吊るされていて
そうして、みんなはそこから落下すると「終わりだ」と思い込んでいるのだが
実際は、そうではない
そこから落ちると、存外に奈落というものが
居心地いいものだと私達が気付く時が
いずれはやってくるだろう
その時、君の眼にペソアのあの彫刻のような顔が覗いても
君はその顔の奥にもうひとつの燃え盛る愛がある事を確かめるために
まだ、しばし歩まなくてはならない
僕は今、ペソアの書物を手に取って
自分の体内をかき回すかのように自分を検索する
もし、世界が一つの夢なら、私の内部というもう一つの夢は
「それ」に対抗できるもう一つの巨大な伽藍の夢だと
私が知っているから
・・・だから、私はペソアに別れを告げ
自分の無名性を貫く
その時、私は裏の世界に現れる
もう一人のペソアに出会う事だろう・・・
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