洪水の夜/春日線香
まだ夕方だというのに眠くて
すこし横になっておこうかと考えているうちに
いつのまにか眠りがやってくる
目を覚ますととうに外は暗い
諦めてこのまま寝直してしまおう
と、その前に水を一口
手を伸ばした枕元の感触がおかしくて
月明かりを頼りに見てみれば
畳に無数の穴が空いており
ぞろぞろぞろと蟻が這っている
しきりになにか実のようなものを
互いに手渡しで穴の奥へと送り込んでいる
ああ
日々は世知辛いのが常だから
蟻のほうでもとても必死なのだろう
食うためになんでもしてやろうという
考えれば考えるほど切ない営み
その事情はよくわかる
でも畳に穴を空けられては困るのだけど
まだ眠い目をこすりながら蟻の巣に
じゃーっとコップの水を流して眠りにつく
そうして訪ねる夢の中は悲鳴でいっぱい
溺れるひまわりがぐるんと月を追う
朝になってみれば枕元には跡もなく
今日も暑くなりそうな夏の朝に
ちりんと風鈴が鳴るだけ
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