渓谷で/eyeneshanzelysee
 




そこに、あしを踏み入れた瞬間に
あたしにいちばん近かった森林の
若い樹の手のひらが震えて
腕までつたって、となりの子に伝えて
まるで警報を鳴らすように
ざわざわ、ざわざわ、緑がゆれはじめた。
曇天のすきまから零れる色素のうすい光は、
渓谷のなかじゃやわらかな綿のようになって
ちいさな、とてもちいさな微生物や埃を口にふくみ
川の流れにしたがっておりてゆく。
あたしはごろごろとした石をよけながら、
折れた木の枝が散らばった地面をぱきぱき鳴らし
歩みをすすめ、奥深くに入り込んでゆく。
ひぐらしの声や鳥の鳴く声を識別できても、
あた
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