白い林檎/済谷川蛍
壁も天井も床も、何もかも白い部屋の真ん中に、白いテーブルが置かれ、テーブルの真ん中には白い籠が置かれ、その中に、白い林檎がピラミッド状に積まれている。
白い部屋には他に家具はなく、窓もない。ドアもない。いやしかし、スッと白く曖昧な壁に隙間が開いて、そこから一人、少年が入ってきた。一見して聡明な顔つきだが、さらにその容貌の精緻にまで気を配ってみると、輝きを失った彼の両目は虚ろなようで、しかしただ虚ろと云うには憚られる、微細で繊細な憂愁が、その内で無数に揺らいでいるようだ。潤いが足らず、かさついた唇は、何かに怯えているように強張って萎縮している。少年は部屋を眺めている。いつの間にか閉ざされたドア
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