何一つ好きにはなれない/ただのみきや
いまは何一つ好きにはなれない
しろい夏に鳴き終えて落下する少女
夏は夏らしく振舞うことで時を虚ろにする
日に焼けたこどもたちよ
謎が謎でなくなる未来
夢に見たものの本性を知る将来
蝉は鳴いているだろうか
きみたちは抗っているだろうか
静かな夜は訪れてくれるだろうか
記憶は一人歩きしていないだろうか
大人たちは宣ているだろうか
平和を説きながら憎しみ合っているだろうか
できなかったことをきみたちに期待しながら
手の中と頭の中の境目もなく
ほとんど何も変わらないだろう
宇宙旅行には行けるかもしれない
しかし蝉は墜ちるまるで人の魂のように
そして太陽は徐々に陰りながらも嗤うだろう
もう何一つ好きにはなれない
しろい夏に鳴き終えて落下する少年
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