岬の家/佐東
真夜中の波打ち際で 全身を青白く夜光虫のように発光させて 少女のような声色で はしゃいでいる祖母を見た と近所の漁師の語る声が 浜に打ち上げられているのを拾った
それ以来 祖母を見たものはいない
食われちまったのさ 海に!
母さんは 鯨油をさしながら ぶっきらぼうに言い放つ
キッチンの床には 蝶番から溢れた油で ちいさな海ができている 窓から洩れる月あかりが 青白く反射している 母さんは 全身を青白く発光させながら 鯨油をさし続けている
*
風がとまって 二日目の午後
父さんから 手のひらに収まるほどの ちいさな古い鍵を渡された
お前
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