取り替え子/影山影司
 
てみたところ、提供者がドイツ人のクリスチャンであった事がわかる。

 理由は定かではないが、人間もどうやら脳だけでものを考える訳じゃないらしい。
 肉体の何処かに、心が宿っているのだ。
 昆虫だと、それは神経の玉で行われていると、悠二が言っていた。
 それを移植することで、人は心を他者に植え付けることができるのかもしれない。
 死んだドイツ人の信仰心も、まったく無関係だったアメリカ人の中で蘇るのだ。


 あれから、気が向いたら悠二とあった居酒屋に酒を飲みに行くようにしている。悠二とは一度も会っていない。会った所で、顔も憶えていないのだが。口内炎はすっかり治ってしまった。唇の裏を舐めても、その痕すら残っていない。悠二の胸の瘤は治るだろうか。いや、彼はあの瘤を医者で切り取ったりはしないだろう。もはや彼にとって切り離せないものなのだから。
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