SCHOOL/済谷川蛍
 
 時代の奔流が生んだ特別な学園があった。校庭では球児たちのかけ声が響き、青空の下練習に勤しんでいる。校庭から校舎側へ歩いて行くと、中等部と高等部の校舎が距離を置いて向かい合わせに建っている。そして二つの校舎の間には、この学園のシンボルである巨大な観覧車がゆっくりと回転していた。

 高等部校舎には普段あまり生徒たちが立ち寄らないトイレがあった。水洗ではあったが、ウォシュレット機能などはなく、旧い時代の空気と面影が日蔭に溜まっていた。出入り口付近には、コンクリートで造られた手洗い場があり、ちょうど一人の男が手をこすり合わせていた。男は高校生には見えなかった。表情や動作に幼さのようなものがあったが
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