コインロッカー・ブルース/御笠川マコト
私鉄のターミナルは
午後六時の雑踏
地下一階の売店の横
恥ずかしそうに
コインロッカーがある
耳の上に白髪が混じる会社員が
膝まづいて足元のロッカーに
黒光りする鞄を大事そうに入れた
仕立ての良い背広の袖をはたいて
足早に向かうのは
誰かが待つ背徳の部屋かもしれない
どこに行こうと構わない
独りの男になれる悦びを
背中が謳っている
百貨店の紙袋をそっと置いた
パート帰りの主婦
砂埃に汚れた制服を
丸めて投げ入れた警備員
誰もがしんどい日常を
ちょっとの間忘れる為に
此処に来るのだ
ふたりの自分をつなぐ
トランジットゾーン
おい、
俺たちのコインロッカーを
ガキ共に渡すなよ。
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