言うまでもないこと/佐々宝砂
私は大腿骨である
私は頸骨である
私は肩胛骨であり鎖骨であり肋骨であり
胸骨であり恥骨である
私は横紋筋と平滑筋である
私は繊維質の束である
私は気嚢であり胃腸であり
胆嚢であり十二指腸である
私は膵臓であり心臓である
私は柔らかい袋の塊である
私はリンパ管である
私は血管である
私は尿管である
私は細い管の連なりである
私はまた髄であり膜であり腺である
化学物質が私の神経系を支配する
複雑に構成された有機物である私は
単純な無機物である水をごくりと飲み干し
有機物でも無機物でもない言葉というものを
中枢神経系から絞り出す
言葉よ
願わくは脳内麻薬物質を律せよ
骨と繊維と袋と管と髄と膜と腺とを
私自身の人体と他者の人体とを
呪縛し支配し思うままに動かせ
言葉よ 言うまでもないことだが
私の身体はすでにおまえそのものである
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