晩い道化/すみきたすみれ
 
ターで降りていく
烏が律儀に
漁りに来るのも
今となっては
厚い眼鏡が昏くなる
網で覆って
エレベーターで昇っていく
鏡に向かって
襟が撚れているのを
直していると
今朝の警句を
思い出せない
そして明日の境が
幽かになると
不如意に先が見えてしまう
日めくりを
また一枚
破ってからのゴミ箱に
捨てると今日も
また雨だと、溜息をつく

行きつけのスナックで
散々蓄えた薀蓄もほどほどに
安くも馴染む焼酎を仰ぎ
カラオケを歌い
演歌や花鳥がわかる
ふりしてみたり
時には隣の若い男に
恋愛指南をしてみたり
女に説教垂れてみたり
動揺する恋慕の気持ちに
居心地の悪さを感じ
日暮れに現れた
草臥れた男に
ノスタルジーと昔日の己を
重ねる、と酒を勧め
恐れないのではなく
感じないことに
今更の自由を覚え
長い日没の街を
表札を探して回る
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