夏卵、カラン [kraan]、からん/みずうみ鳶
からんからん頭が鳴るんだろう
夏卵、夏卵
カラン [kraan]
蛇口をひねると水道管の奥で
金具と流水のかなでる耳鳴りのような
凍えた響きが
どこかとおい水道局の銀のパイプを
だれかがずっと叩き続けている
からん 禍乱
眼に
戦後の焼け跡をはしりぬけた荷車を
すべての焼け跡を詰めて
ひたはしった姿を焼き付けたまま
あたまのなかはほとんど
カラになって
瞳は抜け殻の黒い穴
枯れ井戸の暗闇
に湧くのは
乞い願うだけの悲しみ
震える口が吐くのは
風景になってしまった一人漫談
からんからんと
乾いて縮んだ脳が記憶の底で鳴っている
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