「腰越 Z 」の野球帽/服部　剛
　
のお父さん、病気で亡くなったって・・・」

と、突然の訃報を告げた

　〜

あれから１７年
３０前の僕は O の家を背に
なだらかな夜の坂道を登り始める

ふと 夜空を見上げると
あの頃 O の家で練習前に皆で集まり
ファミコンの野球ゲームをやっている時
O のお父さんが

「おまえら、みんな、かわいいよ」

と呟（つぶや）いた、
満面の笑みが星空に浮かんでいる気がした

僕は立ち止まり
力なくおじぎしていた胸を少し張って
O の家を振り返る

そして、
あの頃と同じ瞳で中腰にかまえると
これから「大人」になってゆく未来の方に
うっすらと立っている O のお父さんがバットを握り、
僕にこれから打って来る、片手にのせた白球をみつめ

「さぁ来い！」

と左手にはめた見えないグローブを
もう１度 地面に垂（た）らす


　
　　*「腰越 Z 」・・・作者が小学生の頃所属していた
　　　　　　　　　　　野球部のチーム名。

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