「腰越 Z 」の野球帽/服部 剛
職場の同僚と口喧嘩(くちげんか)して
凹(へこ)んでいたハートに靄(もや)がかかっていた夜
やり場のない気持を抱えたまま、散歩に出かけた
家を出て、ひとつ目の角を曲がるとすぐ
小学校の頃の野球部の仲間で
もう引っ越してしまった O(オー) の家がある
通りなれた夜道を歩いていると
あの頃 とても太った O のお父さんが
坐ってキャッチャーをしてくれたり
バットをかまえてノックしてくれた白球が
アスファルトを早く弾(はず)んで
遠い昨日から
もうすぐ30歳になる僕のうすっぺたい胸をめがけて
飛んでくる気がした
かつて O の
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