○○○のはなはよるひらく/佐々宝砂
横向きの首をゆっくり上向きにする。
夜が来ていることをたしかめるように息をする。
汚い音をたてて空気を吐き出し
汚い音をたてて空気を吸い込む。
夜だ。
夜の臭いがする。
手探りで自分の顔を確認する。
鏡を見る気が失せてからもう長い。
ファンデーションとチークと口紅で抵抗したこともあったが
いや、年齢の話ではないし
器量の問題でさえない。
この顔に皺はない。
皺がなければいいという問題でもない。
問題は顔のパーツがちゃんとついていて機能するかどうかだ。
目はひとつ使い物にならなくなった。
残るひとつにもあまり時間は残されていないと思う。
歯もほとんどが落ちてし
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