水槽/春日線香
 
叔父が川で釣ってきた魚を
金魚の水槽に入れておいたら
次の日には金魚が一匹いなくなっていた
その次の日にはもう一匹
さらに次の日にはもう一匹
しまいには金魚はすべて消えてしまって
うす黒い鱗をぎらぎらさせた
種類のよくわからない魚が
悠々と尾をひらめかせている
満足げに水草の藪を行き交い
そこのお寺や茶屋で休んでいくとかで
近所の人もどうにかしたほうがいいという
早く埋めてしまいなさいよと
そんな注進もさることながら
わたしたちはなにより
金魚を死なせてしまったことが悲しくて
それも得体のしれない化け物の餌にしてしまって
もう少し早く気づけばよかったね
あの時別の方法を選んでいたら
こんな残酷なことにはならなかったのにね
と奥歯で噛み締めていたところ
骨はぎりぎりと締めつけられ
十本、二十本に分かれた
痩せた指先に白い結晶をなし
伸びた爪は宙を掴んで
夜に輝く水槽を
化け物の鱗を剥がしてやろうと
がりり、がりりと引っかいています
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