【風】夏風オムニバス/るるりら
 
 思い出にする
 思い出にするには いまなお まぶしい 




【どこふく風】   


遮断していた部屋は しめっぽい空気が淀んでいて
引出しを開けてみると 碁石があった
父の たたずまいが あざやかに蘇る 
たのしげにしている 父の日常
おもわず 鼻の奥が ツンと涙の匂いがしはじめた

流通しはじめた思いが つぎつぎ生まれ 堰き止めても
あっという間に わたしは満水となった
くっぷんくっぷんと 浮き輪は ういていて
浮き輪の上から わたしは 二本の脚をばたつかせている
お父さんの笑い声が 足を わらっていたが、わたしは 溺れていた
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