失われた花々に対する二、三の刑罰/青土よし
 
女が踊っていた。それは幼き日の男の妻だった。その回転や跳躍に合わせて水が飛沫を上げ、また、赤い寛衣が風を切り、乾いた音を発していたのだった。少女の足は水中に浸からず、水面を軽やかに踏み締めていた。男は少女の足から自分のそれへと視線を移した。先程まで水が浸していた部分を日の光が浸していることに気が付いた。光は戸口から侵入し、家中を這い回り出した。隈なく充満した夜を光で空っぽにした。とうとうそれは祖母の元まで辿り着き、眠る彼女の顔を愛撫した。光が触れたところから、祖母の肉体は白い砂と化した。それは時間を掛けて彼女を包み込んだ。やがて爪先まで覆い尽くしたとき、一陣の風が吹いた。砂は日光を反射させたまばゆい残像となって消えた。
 腕時計の針は三時を指そうとしていた。男は携えていた鞄の中から、チョコレート菓子の包み紙と鉛筆を取り出した。そしてそこに、ごく短い文章を書き付けた。「今や金色の夢は去った。ここにさえ愛と生はある」と。
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