海まで遠く離れている/佐東
 

潮の香が
心地よくいざなう午後は
大抵の白い壁に
透明のバス停が浮き上がっていて
そこには潮流の到着時刻が

【珊瑚時】
【シオマネキ分】
【ゾエア秒】

海洋性の点字で記されていて
次の夕立には
溶けてしまうそうで

乗り遅れないよう
指さきで辿ってゆく

夕顔の咲く音をたよりにして





(不可視の潮音
舌の上であそばせて
南へ向かうバスを待つ
鳥)





駅前のバスターミナルで
水分を失って
しわしわになっている夏を
拾ったことがある
冷蔵庫の中で
静かに寝かせておいたんだけれど
次の朝
息も絶え
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