日暮れ刻/イナエ
へ去って
追いすがって飛び込んで居間
欄間にかかった父の無表情な写真は
ぼくの空洞を埋めはしなかった
お休みを言って上がった二階の窓から屋根に出て
睨み付ける金星と目を合わせないように
屋根を伝いミーちゃんっちの
窓をそっとたたいたスリル
猫の恋にも似た想い出は空に消え
星の無い夜空に窓は開いているが
手すりには有刺鉄線が絡まって
上野動物園裏の人通りのない道を
獣の咆哮をかきわけて家路を急ぐ女ひとり
路傍の祠に手を合わせ
立ち並ぶアパートの闇に消えた
道は閉じて 帰ることなど出来ない過去
神田川のプロムナードを散策する人影はなく
ビルの根元を流れる哀愁さえも
目をつり上げたクルマが押し退けていく
星の消えた宙を眺めるぼくの前を
手すりを越えた少女がひとり
夜空に落ちていく
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