いとおしい/青井
なにもいらないんだと思う
携帯電話もハンガーも
靴みがきも絆創膏も
買ったばかりのコーヒーメーカーも
あればあったで悪くはないが
なければないに越した事はない
もっといろんなものを捨てて
身軽にできないものかと思う
袖口の汚れた古いワイシャツなんて
燃えるゴミに出すべきなのだ
なのについ勿体無がって
いつかのための雑巾用にとっておく
淹れ立てのコーヒーに立ちのぼる湯気のように
物惜しみはぼくの心から蜉蝣のように生まれ出る
だってなにひとつ失いたくないのだもの
愛おしいというのは
いと惜しいということじゃないかしらん
なんて駄洒落を呟いて一人で面白がって
なにもいらないんだと思う
思いながらもまるでヘビースモーカーのごとく
次から次へと口寂しさが押し寄せる
そうしてまたボタンダウンのワイシャツを
ネットで検索して買い物カゴに放り込んでは
ぬるくなったコーヒーに口をつける
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