朝の声援 /服部 剛
 
朝、カーテンを開いたら 
眼下に広がる野原に幾千人のブタクサが 
黄色い房の身を揺らし皆で何かを言っている。 

物書きを志す故(ゆえ)に  
家族に慎ましい日々を送らせてしまっている 
痩せっぽちな主の僕の傍らに立ち、妻は言う。 

「ほら、草々もあんなに 
 声援を贈ってくれているじゃない」

カーテンを閉め、背を向けて 
(よっしゃ!)と心に気を入れて 
一歳の周の寝顔をじっと…見てから 
玄関のドアを開き、車の助手席に乗る。 

妻の運転する車は、僕を乗せて 
風に靡(なび)いたブタクサ達の 
合唱を背後に
今日の糧を得るべく現場へまっしぐら――  
一本道を走っていった 







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