方向感覚/春日線香
 
駅ビルの中で方角を見失ってしまう
エレベーターの混雑や
エスカレーターの昇り降りで
心は6Fあたりをいつまでもさまよう

閉店間際に
ようやく辿り着いた書店では
探している本は見つからなくて

帰り道に喫茶店の前を通りがかると
ガラスに甲虫が張り付いているのが
不吉な呪文となって浮かび上がる

行き先表示もなしに
どの方向に行けばいいんだろう
遠く高速道路のライトが並んでいる向こう
作りかけたような高架の上を
大きな月が降りていく


「かぶとむし日記」月夜に飛び去りぬ 高木一恵

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