あの猫の名前はマダナイっていうんだ、/木屋 亞万
ザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。」
と読めば、気がかりな夢というのは淫夢だろう?と問うてくる
ザムザという男が初めての精通で夢精をして、
それ以降、精液という毒を吐き続ける毒虫となるわけだ
オスは悲しいなと言うと、マダナイはいつもより長めに鳴いた
私はいつも小説を読むとき、書き出しだけ声に出して読む
それが私の思考が読書へと切り替わるスイッチになる
その時マダナイは聞いていないふりをするが
いつもしっかり傍にいて、自分が気に入ったものには
いろいろなコメントを残していった
あの猫が反応を残した文章には、たしかにどことなく淫靡な雰囲気があった
もちろん書き出し以降の内容とマダナイの妄想がかみ合わないものも多々あるのだが
あの猫が反応しない書き出しは確かに豊潤さに欠ける気がしてくるし
マダナイが訥々と解釈を語りだせばお堅い名文も卑猥に響くのである
猫というのはおもしろいものだ
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