眼の中にだけあるもの/みずうみ鳶
僕は僕でなくなりたい
私はもういない
ただひとつその場所だけは覚えている
きみとかきみらとか
いくら手をのばしても硝子瓶を通してしか触れることはできない
溶けた硝子の腕を通して見つめる僕は
今という空気の入り込む隙間もないほどに
入り組んだ硝子体のうねりの肉体に含まれている
冷たさと暖かさが等分に混ざり合った
柔軟な硬質に塩化ビニールの波間に溺れる
息苦しさを膨らませる
肺が二酸化炭素を集めて
虹色の網膜を焼ききらんばかりに
膨張そしてかすれた肺は息を嗄らす
しゃべり声は透明だ
だれにも届かないかわりに
だれにでも届く
僕はもうずっと語りつづけている
声はやっと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)