蜃気楼にて乾杯/済谷川蛍
 
 ラララァ〜ララララル〜ラララルララァ〜ララ〜

 真っ赤な太陽が地上から立ち去ろうとしている。すべての風景は陽炎に揺らめき、無数のラクダのシルエットが地平線をゆっくりと移動している。乾いた風が砂を押し流し、その軌跡がさざ波のように残るが、次の瞬間にはもう形を変えはじめている。その世界は、静かに、ゆっくりと、美しく滅亡している。

 そのとき俺は、都会の真ん中にいた。

 極彩色のネオン、人の群れ、車の流れ、巨大なディスプレイに映るロマンチックな砂漠の風景。テーブルの上に運ばれる上等な料理と酒。ここは、月に何度か気が向いた時にやってくる、そこそこ高級な店である。周囲の客を見渡す。月給2
[次のページ]
戻る   Point(0)