夕暮れのピンチヒッター/済谷川蛍
ほうを向いた。他人のことなどどうなっても構わないという顔をしていた。実は社会というものはそれが結構当たり前なのだ。僕は走って逃げた。ショルダーバッグの中の本の角っこがふとももに何度もささるように当たった。
夕暮れの公園、僕はブランコに座り、夕焼けを見ながらタバコを吸い、物思いに耽っていた。小説のことや、仕事のこと、自分が団地の住民から不審者に思われていないかなど…。ニート歴5年、今年は勝負の年にするぞと誓ったまま何日も過ぎ、気付けば夏になっていた。
やはりまともな仕事は無理なんだろうか…。まともに生きていけないまともじゃない夢のために僅かながら努力してみるのもいいかもしれないと思った。古びたバットが足元に転がっていた。それを杖のようにしてブランコから立ちあがると、いつの間にか図書館の前で逢った男がボールを握って不敵に笑っている。僕はバットを力強く握り、来いと伝えた。オヤジが投げたボールめがけて思い切り振った。確かな手ごたえがバットに伝わり、ボールは夕焼け空に延々と伸びていった。
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