笛吹きケットル/ただのみきや
は火を止めてケットルを見つめた
ケットルはもう何もしゃべらなかった
そもそもケットルがしゃべれる訳ないのだが
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おれはケットルを買い変えた
新しいケットルは見事に高音を響かせる
ケットル界のまるいすでえびすってとこだ
あいつは今 玄関の棚の上
もう蓋は脱ぎっぱなし
布袋草を一株浮かべては
ひんやりと小さな金魚を住まわせている
プレッシャーのかからない毎日だ
≪こんな余生も悪くはないだろう≫
おれは勝手に思っているのだが 本当のところ
引退したケットルの気持ちなどさっぱりわからない
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