砂漠の花/済谷川蛍
った。だから老人の言葉を酌み交わすことは出来なかった。
老人は両手を奇妙に動かしながら言った。
「わしは、ここにはいない。今もどこか、別の地球にいるのだ。その地球はすべての大陸が砂漠に覆われた絶望の星だ。ここにいるわしは、その星の砂漠に肉も血も吸い取られた骸骨の妄想に過ぎない」
老人は震えだし、両手で顔を覆った。何も言わず申し訳なさそうに立ち去ろうとする青年に向かって「お前も同じだ」と呪いの言葉を吐いた。
「同じではない」
青年は咄嗟に呟くと冷笑して振り返った。
「悲観だけじゃ現実は語れない」
「黙れ!」
老人は血相を変え青年を睨み付けた。
「真実に囚われちゃ現実を生きれない」
青年は今度こそ立ち去った。
数千万のまぶたが閉じられ夢を見ている時間に開け放たれている無数の瞳。彼らは待ち続けている。このけだるさを一掃し、冷たい地の底に沈下させ、花を咲かせてくれる清浄な波を。
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