蒸気機関車/済谷川蛍
 
は帽子をひっくり返して期待に胸を膨らませている。派手な音を立てて急行する貨車から一欠けらの原石がこぼれおち、帽子の中へ入った。貨車に山と積まれた積荷はダイヤモンドの原石からルビーに、ルビーからエメラルドにと幻惑的な変化を見せながら人々の帽子の中へ惜しみなく撒いた。人々が歓喜に沸いていると、ブルーダイヤを積んだ最後尾の貨車が通り過ぎていった。それまで続いていたどことなく荘厳に感じる列車の通過音が遠ざかっていくと魔法が解けていくようだった。金粉の舞う大空にフルートのような汽笛が遥かな天上に響き渡り、人々は手を止め一様に頭を下げた。
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