desert rose/mizunomadoka
 
「もう誰も住んでないわよ」
「転居先は?」
「知らない」
もういちどドアを叩いてみる
「無駄だって」
階段の女が言う

男は手すりに酒瓶を置く
「じゃあきみにやるよ」
「禁酒中なの」
「そんなにいいもんじゃない」

「砂漠の砂さ」
「逃げられるわけよね」

男はアパートを出て
ぎらつく太陽の下を歩き
交差点で動けなくなる

女はため息をつき
小さく迷ってから
酒瓶に手をやる





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