膜の中での変身/殿岡秀秋
 
目覚めても
夢が続くのか
岩穴に
風が吸いこまれていく

のぞく眼に
洞窟の奥でうつむく子どもが映る
近づけば
幼いままのぼくだ

小さいからだを
剃刀の風が
音を立てて
通りすぎる

檻の中の熊が
歩きまわるように
小学生のぼくが
動きだす

目を洞穴の外に向けて
校庭で群れる生徒たちを遠くみるときに
片方ずつ目をつぶる
何のまじないか

だれもいないのにつぶやく
湿った空気のように
覆いかぶさってくる不安を
跳ね返そうとするのか

小学校になじめなくて
家に帰っても母が店に出てしまった後で
家の中を灰色の風が通りすぎて
身震いし
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