クローゼットに潜む魔/夏美かをる
ところが ほんの数時間後スカーフを取りに行った私は
その場で再度息を呑み込むのだった
一匹の残党竜が靴の中から鎌首をもたげ
鋭い眼光で私を睨みつけていたのだ
緋色のボディに薄藍と山吹色のペイズリー柄を携えた
いかにもずる賢そうな奴
よりにもよって彼は何故こんな驕奢野郎を見逃したのか?
とにかく刺激を与えぬようにと
ゆっくり後退りを始めた私の形貌から
鬼の面影はすっかり消え去っていた
以来野郎はクローゼットの中でたくましく棲息している
再び狼藉仲間も増えてきた様子である
だが私はその重く白い扉を開けたなら
必要なものしか見ないようにすることにしたので
もはや奴らの姿に慄くことはなくった
所詮わらわは辰年生まれの竜女
ってな事実も相俟ったところで
丸く収まり夫婦円満
これにて一件落着!めでたし、めでたし…ってか?
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