シナモンを飲み込み首を吊るニガー/青土よし
 
 実際的な、現実的な、即物的な悲しみばかりで夢も殆ど見ていない。夜は元来そうであったように、喧噪の抜け殻としてでは無く、朝焼けの胎動として息を吹き返す。双子の微笑むもう一つの夜を嫌悪するのは、何も自己に対する無価値観にばかり因るのでは無い。寧ろ際限無く増殖する緑色の発光虫が原因である。それはどこからともなく体内に侵入し、無意識に於いて反復する絶望と結びついて死の先端を尖らせる。諦めこそが液体の実存をはじく。何にも由来しない言葉で盲人を説き伏せても、彼は徒に大地と交わり続けるだろう。そして今日の死体は昨日までの呼続を示す道具と成り果てる。
 四方は霧に囲まれ、穴の開いた理解は海底へと沈没する。明日を容易く呼び寄せないために、獣は常に低く唸る。この部屋で二度目の春を経て、疲労はようやく双子の足を切り落とす。一瞬間の夢が永遠の愛を課す前に。躊躇われた囁きが誤謬の間隙を突いた。
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