病室/73
 
病室が白いというのは比喩である。

実際、リノリウムの床は薄い青緑色をしているし、ところどころ日ざしに焼けて黄色く変色している。
また、6人部屋のベッドのひとつひとつを囲うカーテンも同じような褪せた黄色だ。
しかし何よりもまず、病室は空気がよどんでいるような気がするのであまり近づきたくはないのだが、
隣で唇を堅く結ぶ母の手前そんなことは言えない。



陳腐な比喩はいったい誰のものだろう。

病室には、花と、果物とをいっぱいに溢れさせたバスケットが置いてある。
大好きな林檎を見つけた私はくだものナイフを取って欲しいのだが、
隣で唇を堅く結ぶ母の手前そんなことは言えない。
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