それでも物語る/うめぜき
 


物語
ベッドに抱いて眠る夜は静か
手垢に塗れて端っこは噛んでいる
それでもいいの
大切なものなのと
物語の夢を見る
星空がきっと
天井の向こうに広がっている

 *

君の頬を叩いてしまった
そのことだけは忘れない
その時の指の感覚も
僕がはたいたものは、頬だけじゃない
知っているよ

 *

今、詩をしたためている
物語が風に消えた日の詩だ
いつか君がいなくなって
いつのまにか祈りが祈りじゃなくなった日の
そういう詩だ

 *

物語
本棚の奥に眠っている物語
こっそりと呼吸している物語
開けば言葉にあふれている
僕が目にしたものは、言葉だけじゃない
知っているよ

 *

春が口からあふれている
やおら花が咲かったように
君じゃないんだけれど
君なんだよ
僕が口にしているものは、物語だ
知っているかい



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