果樹園/葉leaf
 
きの楽しみも、すべて労働の坩堝の中にねじ込んで蒸発させる。そして、労働はその時々に花を咲かせるのである。見よ、農民が苗を植えるために穴を掘っている、その穴の底にたおやかにさく一輪の花を。見よ、農民が桃を収穫する、その腕の軌跡に沿って連なる無数の花弁を。

果樹園には常に農民の労働の花が堆積していて、例えばそれが風に吹かれて都会の窓ガラスを揺らす。都会の住民は、そのとき何か政治的な発明をするかもしれない。例えばそれがいくつもの山の頂で、石が転がる瞬間を記録する。山はそのとき地層の順位を交換するかもしれない。例えばそれが一組の男女の間にきわめて鋭利な距離を育む。男女は愛の位相が変化したことを知るかもしれない。

農民は今日も果樹園で働く。その手から、足から、目から、夥しい微小な花吹雪が散らされ、世界を少しずつ変えてゆく。
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