記憶/壮佑
 

を思い出した。棕櫚の木の幹を伝い降りる金
緑色の蛇。そしてロマン派の小説や絵画に描
かれている女性に憧れた。しかし、蜜柑畑の
女子高生達には無関心を装い、そうやって格
好を付けている割には、のんびりと小枝に絡
まって遊ぶ目の前の小さな蛇に対しては、た
だ手を拱いているばかりなのだった。

 それから更に永い年月が経った。記憶は霖
雨に煙る遠い島影のようだ。私はいい歳にな
り、先年トキエは八十八歳の生涯を終えた。





※摘果(テキカ)=蜜柑の果実をまだ青く小さいうちに捥いで間引く作業。







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