食欲/夏美かをる
が
なんだかとても
愛おしくなった
十枚食べたら
やっと満腹になったので
コーヒーを淹れることにした
インスタントはやめて
たった一人分のコーヒーを
今日はとびきり丁寧に淹れようと思った
やがて沸き立ってきたアロマを
肺に深く吸い込んだ時
私は私の細胞の叫びを聞いた
生きたい、
ただ生きていたい!
私はコーヒーをごくりと飲み込んだ
喉が 食道が 胃が
順に焼けていく
思わず同じ道筋を手の平で辿る
今この中で
私が貪った十枚のパンを
私の勤勉な臓器たちが
懸命に分解している
私の隅々の細胞にまで
確実にエネルギーを送り届けるために
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