遡る/青井
 

でもぼくは叫ばない
ぼくも少しは大人になったのだ
でもそんなこと何の役にも立たない

タバコの火がフィルターまで届いた
ぶすぶすと未練がましくくすぶって
短い希望が消えていく
古くさい香り
死んだじいちゃんはどこへいったんだろう
そんなどうしようもない問いが急に浮かんだ
それもこれも遡っているせいだ

ああもういい加減にしてくれ
という気持ちと
いつまでもこうして遡っていたい
という気持ちが
ぼくの中にせめぎあう

もしかして全部
だまされているんじゃないか
こうして居ることも
遡っているぼくも
ぜんぶ嘘なんじゃないか

でもだからなんなんだ

まあエイプリルフールだもんな
そんなふうにごまかして
消えたタバコをマンホールの穴に投げる
物事に深入りしすぎず適宜そそくさと切り上げること
それが大人の態度です

ぶらぶらとぷらぷらを
足して二で割ったような散歩をしている
遡る心を置き去りにして
逃げるようにすすけた陽射しの中を歩いていく


戻る   Point(2)