恋文考/狸亭
人はなぜ恋文を書いたか
体内の炎を紙につけて燃やすため
でもあるが案外
紙と鉛筆がそこにあったから
近頃では
恋人たちはテレホンカードを消費する
電話器は二十四時間鳴りっぱなしで
体内の熱は電話回線の中に吸い込まれてゆく
二十世紀は消えかかり
恋文は いま
郵便局からNTTへと引き継がれ
いやはや恋人たちの物語は
性急になり
余韻の残らぬものとなった
* この作品は二十世紀のおわりまでまだ十数年を残していたころのもの。現代はもっと凄い事になっている。「賞味期限はとっくに過ぎた」とはいえ時代はこうして流れて行くのだというある種記録詩の役割はあるかも。
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