雨粒カプセル/まーつん
 


 四つん這いになった記憶は
 寝起きの赤ん坊みたいに
 暫く頭を振ったり
 瞼をこすったりして

 やがて
 こてんと座り込む

 君を見上げて
 無邪気に笑うから
 指先であやしてやるといい

 遊び疲れたら
 記憶の赤ん坊は
 親指を咥えて丸くなり
 掌の上で眠り込む

 すると
 その体が光り出し
 輪郭が溶けて
 するすると根を伸ばし
 透明な茎を立ち上げ
 くすんだ色の
 花弁を広げると

 ピントのぼやけた
 街並みを背景に
 見開いた視界の中
 密やかに咲き誇って

 君の気分を
 セピア色に染める
 
 それは゛今゛を
 忘れさせてくれる
 心地よき慰めだ

 思い出の影絵芝居が
 花の香りにひらめいて
 
 閉ざす瞼の裏側で
 君は懐かしき
 微笑みと向き合う



 少なくとも
 しばらくの間は





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