歴史性/破片(はへん)
 
いた。

  今から約16分前、今日という日の世界は24分前に照らし出されていた。光と熱を振り撒く太陽が、一瞬の内に、今、消滅したとして、約8分間、世界は穏やかであり続ける。君の開いている本が閉じた所を、まだ見たことがない。穏やかでなくなった世界を、まだ見たことがないのと、同じように。
 粘性の、肌に吸着するような暗闇が満ちている空間で、あなたはおもむろに手首を縦に裂く。太陽の通過した足跡から、仄かに放射線の温度が立ち上る、黒々と癒着し凍結した路面のない秘境を見せられて、あなたは静かに、まだ滑らかで変色のない紙の中へ、隣の頁が不自然に風化した本の中へ、太陽と世界と、空と海が、あるべき場所に置き去られたまま。それが今から8分前。世界は依然として穏やか。さざ波が聞こえる。蜃気楼のように、視力で捉えられないくらいに、茶褐色に煤けた雲が震える。

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