名前も知らないところから/虹村 凌
 


青梅街道も山手通りも井の頭通りもすっかり夏で
時々牛込神楽の夜を思い出すんだけど
もうお前は思い出したりしないんだろうな
お前がそんな奴だったらきっと俺はノスタルジックに
時々は思い出してもらえるんだろう
俺ももう言い飽きたよ
結構どうでも良くて
死んだって噂も聞かないから生きてんだろうし
縁がありゃまた茶でもセックスでもするんだろう

アカマンボウを切ってマグロの赤みと言うブルースや
G線上を回り続ける点Pを操るブルース
回り続ける地球とか宇宙
ケミカル
そんな話を六本木のバーでしようか
ナッツかチーズでもつまもうと思って入ったバーで
名前も知らないところから始めて
和音と名乗ってくれよ
会ってセックスして眠って仕事へ行く
何回か繰り返した時に
「俺たちはもう別れた方がいい。その方が君の為だ」
真顔でそう呟くから吹き出してくれ
何なら台本だって書くから

お前の中のシミは残っているか
俺はもうお前の顔も声もどんどん忘れていくけれど
まだ残ってるぜ小さなシミが

お前の中のシミが消え去って
名前も知らないところからまた
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