名前も知らないところから/虹村 凌
回転寿司屋の板前のブルースとか
山手線の運転手のブルースとか
今でもそんな事ばかり考えているんだ
この前の事なんだけど
風呂場の鏡に捨てられた犬みたいなのが写ってたんだ
誰だって聞いたら
俺だって答えたんで笑っちまったよ
そんな話を後輩にもう3回はしてるって呆れられちまった
そう言えば俺はそろそろ引っ越すんだけど
結局この街でお前に会う事もすれ違う事も無かったな
ロフトからお前の服を下着を放り投げる事も無かったな
そもそももうこの街にはいないんだろうし
きっと上野の美術館にでも行った帰りに
鴬谷あたりのラブホで茶髪と眠ってるんだろう
もうそんな歳でも無いか
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